「折れてますね」

 長岡市内の病院だった。

時刻は七時を回っている。

 それは、死刑宣告だった。

 私はぐるぐると回る頭に惑わされて、その場で体の中身を全て戻してしまいそうな気がした。

 骨折――それで私が試合に出られなくて負けた場合、果たしてあの誓いはどうなるのだろうか。

あの上様のお母さんが、見逃してくれるだろうか――いや、そんな甘い考えを容認してくれるわけがない。

 私は、上様を、大切な一人娘を奪い取ったのだから。

 勝ち続けること。

それは遠回しにプロになると断言したも同じことだ。

骨折して試合に出られなくなった者が勝ち続けるなどという大言壮語を吐いて良い理屈などないのだった。

 全治何週間だとか、治療がどうとかリハビリがどうとか、そんな言葉は頭に入ってこなかった。

三週間後に行われる北信越大会に間に合わないということだけは、分かった。

それだけで、私を殺すのには十分だった。

 安藤先生と一緒に病院を出て、ロビーで待っていたチームメイトの前で、私は、安藤先生による、人生二回目の死刑宣告を淡々と聞いた。

私は顔を上げられなかった。

ゆかりと上様の顔を見ることなどできなかった。

二人の親友を最低の方法で裏切った上に、その二人の将来まで、私は潰してしまったのだから。

 長岡駅前のバスロータリーで、私たちは親の迎えを待っていた。

チームメイトたちが、迎えにきた親に勝利の報告とキャッチャー骨折の報告を複雑な表情でするのを見て、私の胸はこれでもかと押しつぶされた。

やがて上様とゆかりと、私だけになった。

上様のお父さんが、仕事の都合で遅れているということだった。

辺りは暗くなりはじめ、このまま暗くなり続ければ、私たちは互いの顔を見つけられないかもしれない。

長岡駅前は、私たちの暮らす町と比べると遙かに都会だ。

それでも、この世界にある町である以上、闇に包まれてしまう運命からは逃れられない。

手を揺らして招くような闇がすぐそこの足下まで迫っていた。

 ゆかりが、私のほうを見たのが分かった。

「……猫ちゃん」

「なに」

「絶対、私たち勝つからさ、だから、大丈夫だよ。私たち、」

「無理だと思うな」

 私の喉から、思ってもいないとんでもない言葉が飛び出していた。

上様とゆかりが、街灯の下で驚いた顔をしたのを見た。

それを見て、私は、自分が何を言ったのかを悟った。

 けれど、止まらなかった。

 喋るのを辞めれば、体に刻まれた痛みで壊れてしまいそうだと思った。

「無理だよ。勝てないって。だって、北信越大会だよ。今日よりももっと強い人たちが沢山いてさ、それで、」

 言い切る前に、私は上様の心を読んでいた。

上様がゆかりを押しのけて右拳を握りしめ、振りかざすのを知っていた。

デッドボールを喰らったときみたいに私の時間が止まり、上様の拳が私の頬をぶん殴り、私は勢いで、ふらりと二歩後退した。

「そんなことを言うなッ!」

 上様が、叫んだ。

あの上様が。

普段は無表情で仏頂面で、バレンタインデーを控えた男の子みたいな顔を一年中している、あの上様が。

上様がなおも叫ぼうとする。

「私はあんたを信じて、」

 私は顔を上げ、きっと上様を睨んだ。

そして、

「無理。絶対無理。私抜きで勝つなんて、できるわけない」

 呪いの言葉を吐き捨てて、バッグも持たずに駆けだした。

上様の顔も、ゆかりの顔も見たくなかった。

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