自己嫌悪でうっかり自分を殺してしまいそうになる。

 そのくらい、自分は本当に嫌な奴だなと思った。

「猫ちゃん! 猫ちゃんってば!」

 松城家から、宝塚家へ。

帰路を辿る私に、ゆかりが追いついた。

私とゆかりの背はほとんど変わらない。

私がなんでもないという風な顔をしている一方で、ゆかりの顔は不吉なものを見てしまったというように青ざめていた。

 日が傾いてきていた。

試合の後にまっすぐ学校に向かっていれば、練習できたのにな、と思う。

けれど、今日の上様に練習をしようなどとは流石に言えなかった。

言っても上様のお父さんが認めてはくれなかったことだろう。

「猫ちゃん、さっきの話、本当なの」

「本当だよ」

「負けたら、辞めちゃうの」

「んー、まあ正直言って、もしも負けても私たちが辞めろって言われる筋合いはないよね。上様は嫌だろうけど」

「そうじゃなくて!」

 ゆかりが叫んだので、私は立ち止まる。

 一瞬ゆかりの中に浮かんだ感想を私は見逃せなかった。

 ゆかりは、いつだって私を守ろうとしてくれる。

私が発した憎まれ口に対しても、ゆかりの心は嫌な顔をしなかった。

私がどんなに憎まれ口を叩いても、ゆかりは私の味方でいてくれる。

ゆかりはそういう子なのだ。

たとえゆかりが、親のいない私を同情で守ろうとしてくれているのだとしても、構わない。

だって、私を守ってくれるという結果に違いはないのだから。

だから私はゆかりが好きだし、ゆかりのためならなんでもできると思った。

「なに?」

「勝ち続けるなんて……」

 ゆかりが俯く。

「大丈夫。私が絶対に、二人を負けさせたりしないから」

「でも、」

「なあに、甲子園に出てる高校生の人たちなんて、ほとんど負けたらおしまいなんだから。私たちだけ一足先に甲子園に入ったんだと思えばいいんだよ」

「そんな簡単に、」

 そう――簡単じゃないってことくらい、私だって分かってる。

 なにしろ私たちは、全国に山のようにいる小学生と少しも変わらないのだから。

 だけど――私は、少しだけ違う。

全国で山と積み重なる小学生たちの夢という名の屍に、私は抗ってやると思う。

 上様には才能がある。

ゆかりも頑張ればきっと、優秀なピッチャーになれる。

 そして私には――誰にもバレない技が、二つある。

 心を読めるということ。

 そして、触らずに、離れた場所にあるものを少しだけ動かせると言うこと。

 三人で力を合わせれば、どんな大人にだって負けはしないと思う。

ゆかりは良い子だから不安そうにしているけれど、大人にだって勝てるのだということを、私たちはこれまでにも証明してきたじゃないかと思う。

 その能力のことを、ゆかりも上様も知らない。

私が黙ってさえいれば、絶対にバレない。

 この三人でずっと一緒にいたい。

この暖かな関係性を守るためなら、私はどんなことでもしてみせる。

 帰路を辿る。

ゆかりの心配そうな顔を安心させるために、私は微笑んだ。

 体内に宿る邪悪な気持ちを、ひた隠しにして。

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